本文
遠賀のむかしばなし(七話 一夜で咲いた菜の花畑 広渡)
広渡にある八剣神社は、そのむかし、遠賀川の向う岸の立屋敷から分神された神様でした。
村人達は毎朝このお社におまいりするのがならわしとなっておりました。
古くなってしまったお社を見て、「早いとこ修繕せんば、ならんなあ。」と、いっておりました。
ある年の春のことです。二、三日前からの大雨で遠賀川の水かさがどんどん増して、いまにも堤が切れそうになりました。
村人達はお社に集まって来て、大切にしているお社が流されてしまっては大変だと、心配で夜も眠らず守っておりました。
みんなの願いが通じたのか、次の日は雨もやみ、からりと晴れわたりました。しかし川原の中には上流から流されてきた色々なものが流れついております。
「あっ、檜丸太だ」
「これはきっと神様のお恵だ。この材木で古くなったお社を建て直そう。」
村の人達は皆でその流れ着いた丸太をのこらず全部川岸へ引き上げてしまいました。
しかし、村の長老はこういいました。
「流れ着いた材木は、上流のものだから、きっとお役人が調らべに来るはずじや。」
「しかし、なんとしても、この檜丸太がほしいもんじゃなあ。」
そこで村の人達は、いろいろと話し合い、考えついたことは、近くの畑を堀って、そこに丸太を一本のこらず埋めてしまうことでした。
男も女も、老人も子供も、村中総出で働き、その日のうちにどうにか埋めてしまうことができました。
けれども、その畑は、誰の目にもすぐにわかってしまうような新しい土の色をしていたのです。
その時です。どこから来たのか見知らぬ顔の美しい娘さんが、「そこに菜を植えてはどうでしょうか。」と言いました。
それはいい思いつきだとばかりに、村の人達はまた総出で、畑から抜いたとわからないように少しづつ菜の苗を移し植え、りっぱな菜畑に変えてしまいました。
「どうか丸太が見つかりませんように。」
「どうか無事にお社が建て替えられますように。」村の人達は八剣神社に祈りました。
その次の日も、雲一つないよいお天気でした。うららかな陽の光を浴びて、この前の大雨など、うそのような美しい村の景色です。
そして、長老がいっていた通り、馬に乗ったお役人達がやって来ました。
「檜の丸太が流れてはこなかったか調べにまいった。」
役人達は村じゅう見てまわりました。あの丸太を埋めた畑はどうなっているでしょう。村の人達も心配して、役人の後からついてまわりました。
その畑は、なんと一夜のうちに黄金色の菜の花畑に変っていたのです。
「おう――。なんとりっぱな菜畑じや。この村の者達は働き者じゃのう。」
そういいながら、役人達はなにも見つけることなく通り過ぎて行きました。ほどなくして、それはりっぱな八剣神社が建てられたということです。
村では、この日を、毎年万年願として、お祭りをすることになりました。
歩いて見ようおはなしのふる里
現在の八剣神社
一面の菜の花
八剣神社